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●学年クラスの近況【昭和36年度卒業】 2022年12月19日 掲載

八丈富士のお鉢巡り(昭和36年度卒業 峯元 信博)
 眼下に悠然と流れる白い雲、その下には草原や低木が混在し、更に山裾を下ると林へと広がりを見せ海に落ちている。ここは標高854m、伊豆諸島で一番高い八丈富士の山頂だ。八丈富士には登った方も多いと思うが、山頂の峰「お鉢巡り」をした方はどのくらいいるだろうか。私も過去に何度か山頂に登った経験はあるが、「お鉢巡り」は初めての試みであった。
 登頂した地点からスタートし、今回は右回りで歩いてみた。眼下には飛行場や神戸山、三根の家並みを眺めながらゆっくりと歩く。
 道幅は狭く人1人通れるほどの小道で、対面から人が来る場合は歩行を止めてすれ違う事になる。草地をかき分け歩いて行くと次第に膝までの低木の密集した道に差し掛かる。そこは藪と低木に覆われ足元は見えず、時々、足が幹に当たり、また、溝もあるために慎重に足を運ばねばならない。しばらく歩いたところで右手の山の下に目を凝らすと垂土の先のホテル群と三根永郷が見えてくる。そして左手には岩とジャングルに覆われた崖が大きな円形の噴火口の壁となって下に落ちており、その高低差は100m以上ありそうだ。上からは腹這いになって覗かないと怖くて下を見ることが出来ない。噴火口のジャングルは頂上の峰と違い強風を受けないせいか、木々も高く鬱蒼として風に揺れている。しばらく見渡していると何か、その神秘性に魅せられてしまう。
 やはり、ここは山の神の神聖な領域なのだろうか。そういえば確かに内輪山へ降りた噴火口の一角に神様が祭られているはずだ。
 そして道に戻るとこの辺からは砂利道、岩山に変わり、歩きやすい。また、夏の季節なので風もさわやかで気温も涼しいため、心地よく、ハイキングも快適だ。私もハイキングは関東近郊の山々や高原等へ何度か行った経験もあるが、その自然の壮観な景色にはいつも圧倒される。しかし、今回はその山々に加えて海も望むことが出来る。何と言っても足元から眼下に望める広い海が地平線まで広がり、まるで天空の上を散歩しているかの様に浮いた気分も味わえるのだ。海に囲まれた山頂という自然環境の中で、ここでは普通の山歩きと違う素晴らしい「お鉢巡り」を体験できる。
 この辺でコースの半分ほど廻っただろうか。一休みするため岩に腰かけ、お茶を飲みながら遥か先の峰の対面を見渡すとハイカーの人達が歩いているのも見ることが出来る。そして山頂の峰の中に目を移すと内輪山の平原も見え、中央には湿地帯となる池が広がり水面に太陽が反射し光っている。
 休息を終え、再び先を歩いていくと青い海に浮かぶ緑一色の島が見えてきた。八丈小島だ。八丈島の西方、数キロ先に浮かぶ小島は八丈島と対となって常に横に並び、八丈島の景観の引き立て役になっている。山頂の上から見ても小島の景観は絶景で絵になる存在である。
 そしてまた、先へと道を進むと足元が狭くぬかるんだ小道が続き、そこを抜けると再び歩きやすい草地に入る。お鉢巡りも終盤に差し掛かり、目先には大賀郷の南原海岸と八重根港が見えてきた。この先が八丈富士の山頂地点で、標高854mの碑があり、ここで本当に登頂完遂となる。足を止めて遠く目を凝らし青个島を探してみると地平線の先に島の霞んでる姿は見ることが出来た。海は静かで落ち着いていてその雄大な景観に魅了される。海が間近に迫り、手を伸ばせば届くのでは、と思うほど紺碧の色が濃い。また、その青い色の広がりは心に解放感も与えてくれる、まさに“ 母なる海だ”。
 そして足を小道に戻して残りのコースを歩き続けると、ハイキングも間もなく最終地点だ。ここから先は足場の悪い上り下りが続き、手を使いながら進むことになる。大きな岩山や岩場の溝を通り、途中には洞窟も見ることができる。更に道は続き、穏やかな草地の下りへと変わった。程良い汗をかき、風をうけながら爽快な気分で歩き続けて1時間20分、漸く最初の地点に戻ることが出来た。天候にも恵まれ、青い空と紺碧の海を望み、そして山の緑に包まれ、最高の条件の下で楽しくハイキングを体験できた瞬間だった。八丈島で小さい頃から海に親しんできた自分は、山との触れ合いは学校の遠足くらいであった。その後の時々の帰郷の際も、やはり行くのは海であった。しかしこうして富士山の山頂を巡ってみると今まで気づかなかった新たな島の自然の魅力を発見することが出来た。そしてこの「お鉢巡りハイキング」は今回の帰郷の中では思っても見なかった故郷からの嬉しいプレゼントであった。

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